医療制度 どう改革するのか
2005 年 11 月、NHK BS ディベートの意見募集に提出したものを保存しておく。
NHK BS ディベート http://www.nhk.or.jp/bsdebate/index.html
2005 年 11 月 : 医療制度 どう改革するのか http://www.nhk.or.jp/bsdebate/0511/index.html
この記事は、最初は論説の方に掲示していたが、論説を閉めるにあたって、頂いたコメントとともにこちらに保存し直すことにした。
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ここに掲げられているトップの命題、「医療制度 どう改革するのか」を考えるとき、以下の 4 件の設問では根本的な改革に迫る議論はできず、当面の医療費の国庫負担、保険者負担を減らすための方策でしかない。
それは、患者をはじめ、医療関係職種の勤労者を含め、国民全体の「痛み」にしかならないものであり、ここで掲げられている「医療制度改革」とは、政財界のための理屈でしかない。
政府はここ数年来国民を痛めつけ、そして来年からはさらなる痛みを加える政策を「医療制度改革」と称して、以下の 4 件の設問の案を示しているので、反論を申し上げる。
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“高齢者の自己負担引き上げ” どう思いますか ?
高齢者医療での自己負担引き上げは、裕福な高齢者が多い、というデータの読み違えを理論的基盤としている。
厚生白書によれば、65 歳以上が世帯主である世帯の一人当たり所得が約 200 万円で、全世帯の一人当たり所得と遜色ないとし、国民生活基礎調査によれば、世帯主が 60 歳以上の世帯の貯蓄額の平均は約 2,300 万円であるという。しかしこれらは、格差の著しい高齢者世帯の現実を平均にならしてみただけで、この所得や貯蓄額の分布は、平均より低い所に中央値や最頻値があり、一部の高額所得者や資産家が統計に入るために、平均値を引き上げているに過ぎない。
高齢者世帯の年間平均所得は 366 万円だが、階層別では150 - 200万円の階層が最も多く、200 万円以下の世帯が全体の 37% であるという。
貯蓄額も世帯間格差は顕著で、3,000 万円以上の世帯が 8.4%、200 万円以下が 33.1%、貯金なしは 11.9%とのことである。( 1998, 1999 国民生活基礎調査 )
医療機関へのアクセスのしやすさ、かかりやすさは、疾病を軽度のうちに抑え、悪化して高額な医療にまで進んでしまうことを防いでいる。自己負担の増大は受診に対する最大の足枷となる。所得によって自己負担割合を変えるといって、現在でも1 割、高所得者は 2 割負担になっている。1 割を 2 割にすれば倍増である。しかも、高額な医療は自己負担の上限がある。
自己負担増は軽費医療を抑制することはできても、高額な医療は抑制できない。医療費の大部分が高額な医療の患者で消費されていることを顧みると、高齢者の自己負担引き上げは、疾病が軽度なうちの受診を手控えさせ、高齢者の有病率を上げ、高額な医療の消費が増え、結果として、高齢者の医療費を増大させることにしかならない。
それは高齢者にとって不幸なことである。さらにこの案では、医療費を負担する国、企業、現役世代の勤労者にとってもマイナスの結果にしかならないという自己矛盾に陥る。
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“診療報酬の引き下げ” どう思いますか ?
診療報酬が医師の給料であるかのような報道を目にする。診療報酬は、医療機関の建物設備を整え維持し、薬や材料を揃え、医療関係職種の勤労者の人件費となるとともに、将来にわたって医療の提供を続けて行くための、そして新しい設備、技術を導入し医療従事者を訓練進歩させて行くための原資となる。
人事院勧告による公務員の給与引き下げに診療報酬を連動させるなどの議論が出ているが、ナンセンスである。診療報酬イコール人件費ではない。ましてや人件費イコール医師の給料ではない。
診療報酬を下げるということは、現在ある医療の質、量ともを、これから先、落として行くことに他ならない。
もちろん、どんな組織のどんな予算の執行にも無駄は生じる。無駄はなくす努力をするべきだが、現在でも低く抑えられている診療報酬の無駄を省くだけで質、量を拡大しながら医療にかかる費用を下げるなど、絵空事に過ぎない。
高度経済成長の時代からバブルの時期を経るまで、日本経済は豊かになったが、診療報酬は物価上昇以下に抑えられて来た。バブル崩壊以後は、物価上昇幅に較べ、診療報酬の伸びはさらに低く据え置かれた。
目の敵にされている医師の給料は、最近の 10 - 15 年でほとんど増えていない。昨年始まった医師研修必修化で、研修医にも幾ばくかの給料が払われることになったために、統計上は医師全体の給料の平均値が上がっただけである。開業医の月収 200 万円余という報道の数値も、2 年毎に報道されるたびに減ってきているではないか。
ここに挙げられているデータを見ただけでも、日本の医療は安くて世界最高の質である。診療報酬の原資は税金、企業の保険料負担、国民の保険料負担、そして患者の窓口自己負担である。診療報酬を減らしたいという政策は、実は国庫負担を減らしたいだけという政策上の論理、および医療費のうちの公的部分を縮小したいという経済界の論理のカモフラージュであろう。
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“総額管理で伸びを抑える” どう思いますか ?
公平で普遍的な医療の提供は、社会保障、社会のインフラ、国民の安全を守る、すなわち国家の安全保障である。国民皆保険の医療制度は、日本人に安心を与え、労働力を再生産し、日本の発展の基礎を支える制度である。戦後、先人たちが、政治家も医療従事者も国民全体で、苦労して作り上げて来たものである。
医療技術が進歩すれば、それにかかる費用は増加する。高齢者が増えれば、現役世代に較べて有病率が高いのだから高齢者にかかる医療費は増加する。それに上限を設けるならば、日本の医療はここまで、という線を引かざるを得ない。
その線引きを誰がどのように決めるのか。国民全体の議論で決めるのか、政財界が自身の論理で決めるのか。
現在の議論は、国庫支出と企業負担を減らすことにしか目的がない不毛なものである。一例を挙げれば、高齢者やがん患者の終末期医療。どのように生き、死ぬか。死生観や宗教、残されたものの気持ち、家族の経済的問題、様々な要素が絡み、国の予算でハイここまでと、金額で簡単に線を引けるものではない。
高度な医療をどこまで公的保険でみるか。金持ちのみが助かるような医療制度では、国民に安心を与えられない。国を挙げて議論するべき問題であるのに、国民には議論の基礎となる正しいデータすら示されていない。
厚生労働省が予測する将来の医療費予測は、あたったためしがない。1995 年の予想では、2000 年 38 兆円、2004 年 50 兆円だったが実際には、2000 年 30.4 兆円、2004 年 32.1 兆円だった。現在の診療報酬の制度で、医療費の自然増を考慮しても、十分に医療費は抑制されている。設備、薬、器材、いずれも技術革新とともに高額になっているにも関わらず、費用は抑えられている。
医療の現場で実際にかかる費用を無視して、総額にキャップをかぶせ、今以上に医療費を抑えるとしたら、これまで費用を抑えて来た最大の要因、すなわち医療従事者の人件費と待遇をさらに切り下げて行くしかないのではないか。厚生労働省が示す予測で総額管理をしたならば、国民皆保険による医療は荒廃する。その再建には、英国の例をみるまでもなく、また長い年月と膨大な努力を必要とするだろう。
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以下、" m3より抜粋 " 様より頂いたコメント
「「「1」」」
厚労省官僚(医系技官)の思考パターンについて、再構成します。
厚労省自体、一枚岩ではないが、大体いいんじゃないかとのことでした。
1 俺たちは、国を治す、上医である!
俺たちが、医者なのに安月給で、事務仕事をしているおかげだぞ、と言いたい
2 できれば、すべて俺たち行政で仕切りたい
小泉のやり方は気持ちよかった、好きだ、しかし俺たちの縄張りの規制緩和は困る
本当は、○リッ○スや外資に荒らされたくない、俺たちで仕切れる国民皆保険制度は守るぞ
3 だけど、保険財政が破綻しそう、財務省もうるさい、で、どうしたらよいか頭を悩ましているんだ
視野の狭い臨床医ども黙っていろ、考えがまとまらないじゃないか
とりあえず医者を増やさなければ、金がかかる検査、処置、投薬も増えんだろう
4 医者が足りないとか、僻地の首長たちがうるさいな、だから僻地に病院なんか要らないって
2次医療圏に基幹病院は一つで十分、他に置くならサテライト診療所、開業医がいるじゃないか、
家で介護しろよ、看取れよ、金がないんだから
5 産科、小児科、救急がつぶれるのは困る、俺らの家族のこともあるしな
産科、小児科、救急は、診療報酬上げてやる、子供は内科でも診ろよ
6 小泉と一緒に、国民の不満をそらすために、臨床医どもの高報酬を槍玉に挙げたが、
マスコミも良くやってくれている
7 専門医?俺たち行政で認めた資格しか認めねえぞ
猫も杓子も専門バカで困る、国民もまず「かかりつけ医」にかかれよな
8 そうだな、俺たちが認めているのは、精神保健指定医、母体保護法指定医・・、
精神保健指定医は、俺らが管理している資格だから診療報酬に差をつけてやった
日本内科学会?なんとか学会?日本医師会?すべてプライベートな社団でしょ
9 総合医なんていいね、ただ、総合医資格には、俺らのような公衆衛生の経験が必須ね、
ちゃんと医師法読めよ
10 「かかりつけ医」の開業の先生方には、是非是非、御協力いただかないと・・
11 しかし、医師会ってかわいそうね、俺ら行政にいくら恭順姿勢を見せても、報酬を減らしていくの既定路線なのにね
12 大学の医局も気にいらねー、俺ら医局なんかに入らなかったし関係ないけどな、
臨床医どもが医局で権威ぶっているのが気にいらねー、俺たち行政医師をバカにしているんだろ
13 新臨床研修制度は良い制度だ、研修医が大学医局に入らないって?ザマアミロ、だから俺たちのほうが上なんだよ
14 しかし、俺たちの嫌いな専門バカを少しはましにしようと考えた新研修制度も当たり過ぎたな、
次回の見直しでは、研修医は、出身大学の県内の基幹病院でしか研修できなくするか
15 今、都会に集まり過ぎた研修医をどうするか、
もう少し、マスコミを躍らせて、世論を動かして、
機が熟したら(3年以内に)、後期研修後2年間の僻地勤務義務化なんてどうよ
16 新研修制度は良かったが、全国自由なマッチング、やり過ぎだったかな、
こないだ、2ちゃんに、現職の勤務医による全国の病院のオークションどうかと書き込まれたときには、こりゃ、マズイと思ったぜ、臨床医どもの待遇、給料が上がってしまうじ ゃないか
17 やっぱ自由市場でなく、適当に法で強制しながら、安月給で、24時間コンビニ奴隷医やらせるんが、得策や
18 そうや、労働行政もやってる俺ら、まずは労基法がそーと変わるのにあわせて、
俺らより年収の高いやつらは労基法適用外、死ぬまで働け、聖職者だろ
19 善意の甘ちゃん勤務医たちは労組も作れんし、政治力もゼロ、今のうちに、国家国民のために、奴隷医制度を固めるでー
次官に噛みついた本田とか、うるさいな、黙って手術でもしてろって
「「「2」」」
「医療崩壊は国の失政。産科崩壊も、医療事故も全て国の失政」という方向に、マスコミを煽りましょう。
みのもんたさんが、今一番テレビに出て、国民受けが良いようです。(いろいろご意見もあるでしょうが、)
先日の自民党の国会議員に噛み付いていました。
(リハビリの日数制限で、自民党の世耕議員・首相広報補佐官に、弱いところから法改正が進んでいくと、)
出演者の主張・発言の制約がかからない番組で、弱者寄り(患者のみならず、医療提供者も)の司会者のもと、悪代官の官邸・官僚をたたく、勧善懲悪的番組(水戸黄門的?)を してくれるマスコミが良いかと思います。
10月14日のNHKの番組が受けがよかったので、民放は2匹目のどじょうを狙っています。
「「「3」」」
m3の皆様が、あちこちで言われていることをもとに、思いつくままにあげてみました。
1 ネット上で、臨床医が連帯する
2 頭として、武見太郎のようなカリスマを押し立てる
3 全国の病院の待遇、勤務実態に関する情報を共有する
4 医療経済学者、官僚との議論、話し合いの場をもつ
5 医療崩壊の情報を、国民に、真摯な態度で提供する
1は、ここ数ヶ月で、とくに10月以来急速に進んでいると思います。
2は、本田宏先生に期待いたします。
3は、m3上に、情報を集積するスレッドを立ち上げましょう。m3が、行政の圧力に屈しないことを信じて。
4は、ぜひ、本田先生に交渉をお願いしたい。本田先生の「医療制度研究会」がその機能をはたされるかな。
4、5には、お金がかかると思います。激務の本田先生には、私設秘書も持っていただきたい。
そこで提案します。
皆さん。本田先生に、「献金」する、というのはどうでしょうか。本田先生は、手弁当で動かれているのではないかと心配しています。事務仕事も膨大なものになっているのでは 。また、医療制度に関する情報収集も大変と思います。
ちなみに計算してみました。全国の10万人の勤務医が、年間、1人1000円出せば、年1億円の資金になります。
趣旨に賛同する勤務医が、仮に、20%としても、2000万円の資金になります。
本田先生が、国民に正しい情報を伝えるための軍資金になるのではないでしょうか。
私たちは、本田先生を信じて、使い道はお任せします。夢を購いたいのです。
道標主人 | 2007-05-03 22:34 | 医療、社会保障 | 固定リンク | コメント (2) | トラックバック (1) | Top
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■医療消費者としての賢い患者 いままで3回に渡り患者の視点から見た「痛み」をと... [続きを読む]
受信: 2007/06/19 12:44:10
コメント
今年は選挙がありますが・・・医療に関して合格点以上の政権公約を提示しうる党が、果たしてあるのかないのか。しっかり見ていこうと思います。それと同時に、現状をしっかり見据えられる有権者はどれくらいいるのか・・・改革とは、結局自己変革のことと思っています。有権者が、自ら「医療のために何をしたいか」考えることは、とても大切です。
その時は、すぐそこまで来ています・・・
投稿 鴛泊愁 | 2007/05/10 21:36:15
こんにちは、レスが遅くなりまして申し訳ありません。
選挙前の飴 ( 人気取り政策 ) と、選挙後の鞭 ( 最大のものは消費税増税 ) に気をつけたいと思います。
先の記事で私は数年後と考えましたが、それは次の衆議院議員選挙の時期を想定していました。もっと時代は速く流れていますでしょうか。
医療崩壊の元凶 http://sword.txt-nifty.com/guideboard/2007/03/post_a86b.html
投稿 道標主人 | 2007/05/16 17:58:06