岡山 IVH 事件 2
キーワード
岡山市、大腸がん、末期、カテーテル、感染、死亡、医療ミス、合併症
判決文を読んでみた。鑑定書や証言まで分かればよいのだが。司法も外科学も素人の私の頭脳で分かる範囲を簡単にまとめてみる。
平成 16 ( ワ ) 203
事件名 損害賠償
裁判年月日 平成 18 年 11 月 22 日
裁判所名・部 東京地方裁判所 民事第 34 部
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061201104616.pdf
医学的な問題で争点となっているポイントは、敗血症の原因が IVH カテーテル感染なのか、あるいは、末期がんの経過として発生する深部真菌症および敗血症なのか、また縫合不全を疑った判断は誤りだったかどうかというところのようだ。
この判決を見て、思いつく問題点が二つある。司法判断はレトロスペクティブであること、医療への期待は自然の摂理と医学の限界を超えていることである。この二点は、いずれの医事紛争でも根底をなすもののようだ。
平たく言えば、あのときこうしていればこんな方法で助けられたはずなのに、という思いだろう。
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被告医師たちは、術後 1 週間して急に容態が悪化した患者を前に、手を抜くことなく検査や対処を行っていたようだ。その過程で消化管の縫合不全を考えた対処を行っていた。縫合不全は放置すれば致命的だ。そして IVH は感染の恐れを考慮してカテーテルの交換もしている。縫合不全が疑われたら、IVH を中止する決断は大変困難なものである。
裁判所は IVH カテーテル感染と判断し、カテーテルを抜くのが遅かったことに問題があったとした。
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経過のポイント
2001.5.22 大腸癌手術。
2001.5.29 この日までは異常無し。会話、離床でき、飲水開始。
2001.5.30 経口摂取開始。熱発。
2001.5.31 熱発、IVH カテーテルの滴下不良。
2001.6.1 熱発、IVH カテーテルの滴下不良、尿量減少、血圧低下。
2001.6.2 IVH カテーテルの滴下不良、カテーテル交換。
2001.6.3 熱発、深大性呼吸、不整脈及び頻脈、乏尿ないし無尿。縫合不全ではないという判断。IVH カテーテル抜去。岡山大学病院へ転送。
2001.6.4 岡山大学病院搬入時は意識消失、敗血症性ショック、心不全、腎不全。
ウ以上の点から判断するに、まず、5月30日午後4時の時点では、発熱の症状があったものの、この症状は、カテーテル感染に特異的なものではなく、術後肺炎などの呼吸器感染症、腹腔内膿瘍や開腹創の化膿など縫合不全や術創の汚染による感染、重症膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症によっても生じるものである(甲B17〔1〕)。このうち、この時点で、呼吸器感染症については同日の胸部X線検査で異常が認められないことからして否定されることについては、当事者間に争いはなく、腎盂腎炎についても、典型的な所見である腎部痛等がないことから否定される(甲B17〔1〕、H〔8〕)。しかし、縫合不全については、ドレーンからの排液の性状からは、これを積極的に疑える状況にはなかったことからすると、これよりもカテーテル感染症を強く疑うべき状況ではあったものの、縫合不全を否定できる積極的な根拠もないことから、なおしばらくの間はカテーテル感染症と並列的に縫合不全についても疑い得る状況にあったと認められる。その場合、上記2(2)ウのとおり、縫合不全の場合には、その治療として高カロリー輸液が必要とされることからして、カテーテルの抜去の判断には慎重になる必要があるといえる。
したがって、5月30日午後4時の発熱時点では、担当医師であるH医師に、カテーテル感染症を疑って直ちにIVHカテーテルを抜去すべき義務があるとは認め難い。
エこれに対し、同月31日午後7時の時点までには、前日の胸腹部のレントゲン検査によっても異常所見が見当たらず、ドレーンからの排出液も引き続き異常が認められなかったことから、縫合不全については、前日よりもさらに否定的に考えるべき要素が加わっていたのに対し、カテーテル感染症については、IVHルートの滴下不良というカテーテル感染症を強く疑わせる所見が生じていたのであるから、縫合不全についての疑いを理論的には否定はできないとしても、臨床的には、これを否定し、まず第一にカテーテル感染症を疑うべき状況にあったと認められる。そして、上記2(1)ウのとおり、カテーテル感染症に対する処置は、まずカテーテルを抜去すること以外になく、同症を疑った場合には、感染源となるカテーテルを抜去することとされているのであるから、縫合不全の危険性を念頭に置いて抜去の判断に慎重になるべきことを考慮しても、後記(3)で説示するとおり、この時点において、担当医師であるH医師には、IVHカテーテルを抜去すべき義務があったと認められる。
にもかかわらず、上記1(5)ウのとおり、この時点ではIVHカテーテルの抜去をせず、6月2日の午後零時に至ってようやくIVHルートの入替えを行ったにすぎず、その抜去は6月3日午後9時まで行われなかったものであるから、担当医師であるH医師には、IVHカテーテルを抜去すべき義務を怠った過失が認められる。
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後から顧みたら縫合不全でなかったと分かったとして、刻々と変化する病態への対処に追われている最中の縫合不全の疑いという判断を責めることが適切だろうか。
現在の医事紛争では、レトロスペクティブな判断でしか評価がなされないことに、現場の医療との乖離がある。医療は、正解が分からない複数の選択肢の一つを、何段階も、ときに短時間で決断して、選択していくことでもある。そして、多数の選択の積み重ねの結果に明確な正解というものはないのが、医療である。
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本件の患者さんは、脳転移で発見された大腸癌。発見時が癌末期だったのだ。手を尽くしても半年の予後というのが、これまでの知見で導かれる悲しい結論だ。
カテーテル感染は末期癌で悪液質、免疫不全状態で十分に起こりうる合併症である。検出されたものがカンジダであったことからも避け難い合併症と分かる。 IVH をせずに本件の患者さんの全身状態を在宅に持っていけることは乏しい可能性であり、IVH は危険と分かっていてせざるを得ないものだったのだ。
本件の患者さんでは、カンジダ感染が、カテーテル抜去後も β-D- グルカンの高値持続という形で続いていた。これが全て最初のカテーテル感染で説明できるのだろうか。裁判では、β-D- グルカンの高値が深部真菌症である可能性を、可能性でしかないと斬って捨てていて、これも可能性の一つであるカテーテル感染を採用した。しかもそれがカテーテル抜去後も続いているとした。
判決文の該当部分を見てみる。
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上記のカテーテル感染を原因とする敗血症に続発した腎不全及び心不全は、亡Aの死期を有意に早めたものと認められる。
エこれに対し、被告は、被告病院で見られた敗血症は、カテーテル感染に由来するものではなく、深在性真菌症がその原因であると主張し、その根拠として、被告は、β-D-グルカンが2000pg/ml以上の高値の場合、腸管等に由来する深在性真菌症であり、カテーテルに由来するものではないことを挙げる。K医師も、これに沿う陳述ないし証言をする。
しかし、β-D-グルカンが2000pg/ml以上の高値の場合、腸管等に由来する深在性真菌症であるといえる根拠について特に示されておらず、そのような知見があると評価するだけの証拠はない。
他方、入院患者で発熱した患者202例についてβ-D-グルカン値を測定した調査結果を示した甲B33によれば、深在性真菌症の症例全てにおいて、β-D-グルカン値は1000pg/ml以下であったとされている。また、β-D-グルカンが異常高値を示した症例についての報告である乙B10についても、単に深在性真菌症例においてβ-D-グルカン値が1000pg/ml以上を示した症例についての報告に過ぎず、深在性真菌症とカテーテル感染症の区別について論じたものではない。
さらに、被告は、亡Aの症例について報告した論文であるとする乙B20をその根拠とするが、同論文は、β-D-グルカン高値が持続した原因について、諸臓器で真菌感染が持続した可能性について述べるものであり、感染の原因について述べるものではない。むしろ、同論文は、病歴上、消化管からの感染が最も疑われたが、数回にわたるCT撮影及び大腸内視鏡検査においても感染源を特定することができなかったとしており、β-D-グルカン値により感染源が特定できるという被告の主張に沿うものとはいえない。
したがって、上記の被告の主張には理由がないといわざるを得ない。
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カンジダは、腸管の壁で内視鏡カメラの方に向かって手を振っているわけではない。腸内細菌叢の中にいて、日和見感染するのだ。画像でとらえられなくて当たり前ではないのだろうか。
判決の要所と言える部分を見てみる。
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カテーテルの早期抜去により、多くの場合に症状が改善し治癒するとされていることからすると、本件においても、いまだ敗血症性ショックに至っていない5月31日午後7時の時点でカテーテルを抜去していれば、感染症が治癒した可能性が高い上、仮に治癒に至らなかったとしても、感染のフォーカスが除去されることにより、その後の症状の進展はより緩徐なものとなったと推認される。
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感染を起こせば、全身状態が悪くなることは十分にあり得るし、癌末期の場合は、さまざまな些細なバランスの崩れから、全身状態は転がり落ちるように悪くなる。
本件のような事例で、 IVH によるとよらずに関わらず起こりうる感染、全身状態の悪化は、癌という病気が末期になって通っていく経過、本件に限らずよく見られるパターン、自然の摂理と言える。
本件の患者さんが一時にせよ元気を取り戻して家に帰ることができていたら、よいことだったろう。しかしそれは幸運な場合とも言える。そうはならない事例は、本件に限らない。
幸不幸、いずれの可能性も起こり得、医学では幸運のみを引き寄せることに限界があるのだ。不幸な結果が責められなければならないとしたら、自然の摂理以上の無理な期待を医療は背負わされる。合理的な考えだろうか。
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病理解剖所見には、「直接死因としては、経過中のIVH感染による敗血症とそれに続発する腎不全、心不全が考えられる。」との記載がされた。判決ではこれを重視したようだ。病理解剖で IVH 感染は分からない。病理医の印象としての一言が、大きな影響をもたらした。
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本件は、岡山での出来事でありながら、東京地裁に提訴され、医療集中部で審理された。藤山裁判長にあたるまで提訴と取り下げを繰り返したという噂も伝わってくる。噂はともかく、裁判は勝つためにあって、真実はどうでもよいのだろうか。
藤山裁判長は、死亡に対する賠償や逸失利益は認めていないのに、家で元気に過ごせなかった、その期待を裏切ったことへの慰謝料を認定した。原告になにがしかの金銭的補償をもたらすために、結論ありきの判決文のストーリーを書いたのだろうか。
原告の主張の一部を見てみる。訴訟戦術とはいえ、かなり踏み出した見解ではないだろうか。判決では、これに関心は払われなかったようだが。
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敗血症性ショックに陥ったことで免疫不全状態が重篤化しており、このことは癌の再発に少なからず関係しているはずである。よって、最初の大腸癌手術後、健康に回復していたとすれば、そもそも癌の再発があったかどうかもわからないし、仮にあっても開腹して根治のための癌の摘出手術を行えるはずであった。これができなかったのは、被告病院の過失により敗血症に陥っていたためである。
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以下、参考資料、前記事
岡山 IVH 事件資料 2 http://sword.txt-nifty.com/library/2006/12/_ivh_2_0b46.html
岡山 IVH 事件 http://sword.txt-nifty.com/guideboard/2006/11/_ivh__b383.html
岡山 IVH 事件資料 http://sword.txt-nifty.com/library/2006/11/_ivh__6589.html
道標主人 | 2006-12-01 23:22 | 医学, 医療、社会保障, 裁判、司法 | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (1) | Top
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退院後、身体にいろいろ異常が起こりました。 術後、随所に異常がありました。例えば、腰から下の筋肉がツッパッタ感じになり胡坐がかけない、正座か、足を伸ばすか、腰掛けることしか出来なくなりました。お尻は痛いから、円座が必要、立ち上がったとき、車に乗って降りるとき足(特に膝)がガクガクになり、何かにつかまらないと立ち上がれない、正常に歩けない。急に身体が火照ったり、上半身に異常発汗、排尿障害は特に酷かった、自己導尿の一式を常に携行。痺れが出る人もいます。体中がけだるくなって、さま...... [続きを読む]
受信: 2006/12/15 18:21:58
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