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2006年3月22日 (水)

産婦人科医不当逮捕事件 / 雑誌取材

キーワード
医療、航空、航空機、鉄道、船舶、海難、海運、海事、事故、調査、検証、安全、再発防止、逮捕、起訴、刑事、訴追、産婦人科、福島県、マスコミ、雑誌、取材

加藤医師を支援するグループにて、某雑誌社の取材への協力がアナウンスされた。
微力ながらでも役に立てればと思い、以下の文章を送った。

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今回の福島県立大野病院の産婦人科医の逮捕、起訴についてどう思いますか。また、その理由を教えてください。

逮捕について
逮捕は不当です。過去の医療上の業務上の過失に関する事例では、医師が書類送検の上で起訴される事がほとんどでした。逮捕する場合でも、任意事情聴取の上、署内で身柄を拘束することはあっても、今回の事例のように、病院の勤務中、患者の回診中に、患者の目の前で手錠をかけて連行するような事は、ありませんでした。
また警察は、逃亡や証拠隠滅の恐れを逮捕の理由にあげましたが、証拠は既に押さえられていました。
逃亡の恐れなどとは理由をこじつけただけで、それを言うなら、全ての事件で同様の逮捕をしてしかるべきです。本件医師のプライベートな事情や勤務の様子を見まして、逃亡の恐れなどとは理解し難い屁理屈です。
見せしめ的な意味合いを持たせようとした意図が感じられます。

起訴について
I. 業務上過失致死について
まず一般論から申しまして、起訴、すなわち、医療行為の結果を刑事責任で裁く事は否、と言わざるを得ません。

1. 科学的検証と法律による検証の差
業務上の過失があったかどうかの検証、すなわち、司法の手による検証は、およそ科学的な所からは遠く、法律に照らして予見、結果回避ができたかどうかという議論でしかありません。法廷はディベートの場とも言われます。
純粋に科学的な検証が最も真実に近づくことができると思います。

2. 再発防止策に資するか
また、事例を検証することは、再発防止策を立てるために大切ですが、司法判断は、科学的検証ではなく、法律に当てはめて罪があるかないかを検討するのみですから、同様の事例の再発防止策を生み出すものではありません。

3. 検証における隠蔽
さらに、刑事訴追されるなら、事例の検証過程で必ず隠蔽が生じるでしょう。隠蔽に厳罰を持ってしても、刑事訴追から逃れようとするベクトルは働くでしょう。

4. 医学、科学の発展に資するか
有罪者が出れば、同様の事例は、同様の症例の医療を回避する方向に向き、再発防止は科学的な方法ではなく、ヤバい事から逃げる、というやり方になってしまいます。それは患者に福音をもたらすことはありません。

次に、本件に関して申しますと、本件は、慈恵医大青戸病院の事件とは全く様相が異なることを考慮しなければならないと思います。
また、女子医大心臓外科のカルテねつ造の事例や、都立広尾病院での消毒薬誤注事件のような事例とも、本件は全く異なると言えます。

本件の問題点は、高度に専門的な判断が緊急に必要とされる場面での、その判断を結果の善し悪しで刑事訴追する事の意味です。それは緊急事態に遭遇した航空機パイロットと同様でしょう。
3/20、東京地裁で重要な判決がありました。日航機ニアミス事故での管制官の無罪判決です。
裁判官の次の言葉が重要です。

「管制官や機長個人に、刑事責任を追及することは相当でない」

システムの問題と個人の責任は切り離して、個人の責任は法律で裁く、という意見がありますが、それは前述した通り、患者に福音をもたらすことはなく、被害者感情を満足させるという意味しかありません。

II. 医師法 21 条違反について
医師法 21 条の異状死体の定義が、法医学と現場の実際の運用との間で乖離し、大変曖昧なままです。よって、本件でこれを適用した事は、否、と言わざるを得ません。

都立広尾病院事件の最高裁判決以来、医師は憲法 38 条の権利を制限され、その上で定義が曖昧な異状死を司直の手に委ねなければならないという、現場が混乱する状態が生じています。
医師法 21 条の問題は、法律家の間でも問題視されているようです。

その混乱は端的に申しますと、

自然な老衰による死と自然な病死以外の全ての死は、届け出なければならない。
届け出なかったら、医師法 21 条違反で訴追される。
届け出たら、業務上の過失の有無を問われる事につながる。
異状死をもたらした原因に対する検証は、科学と法律では異なる。
憲法 38 条はこの場合、医師には適用されない。

これらが何を意味するか、報道に出てくる現場の医師たちのコメント通り、少しでもリスクのある医療行為はできない、です。しかし、リスクの全くない医療行為などあるでしょうか。

医師は、医療行為、すなわち、人体に傷害を及ぼす事を合法的に阻却されるための資格です。都立広尾病院最高裁判決と日本法医学会による異状死の定義は、その医師の存在意義そのものを否定することにつながると言えます。
多くの医師が「少しでもリスクのある医療行為はできない」と感じるなら、これも患者に福音をもたらすことはありません。

異状死を広くとらえて医師法 21 条違反を適用する事は、医師をとにかく刑事訴追したいための方便でしょう。
本件でそれを適用した事は、やはり、医師を刑事訴追するという強い意図を感じざるを得ません。

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追伸

以上ですが、貴誌で本事件の取材をされるとの事、それが真に患者さんに、そして日本人皆の健康につながるよう、希望してやみません。

患者さんにそして日本人皆に福音をもたらす方策の例としましては、

1. 医療事故の専門的第三者検証機関の設立
そこでの検証を事故再発防止に役立て、よほど重大な過失のみ刑事訴追にまわす、例えば慈恵医大青戸病院事件のような。

2. 医療事故に遭った患者の、国による無過失救済の制度。
国家予算を割かなくても、自賠責保険や労災保険のような制度でもよいのです。

これらやこれら以外にも、いろいろな方策を議論していかなければならず、それは医師の、為政者や法律家の、そして国民みんなの義務でもあるでしょう。
諸外国の制度に見られるような医療事故の刑事免責などは、国民の理解が得られなければ、実現しません。

現在、厚生労働省が進めている医療事故検証機関は、医師を迅速に処罰するのが目的というものです。
これがどういう結果をもたらすかは、上記の通り、自明です。

患者さんが救われ、日本人みんなが健康になって、はじめて私たち医師にも幸福が訪れるのです。
患者さんがどうなってもいいから自分だけ金儲けできれば、などと考える医者は例外です。
巷によく見られる医者叩きをするだけでは、患者さんにも日本人みんなにも、なにも良い結果をもたらさないのだと、心にお留め置きいただけましたら幸いです。

お取り計らいのほど、よろしくお願い申し上げます。

道標主人 | 2006-03-22 00:55 | 医療、社会保障 | | コメント (2) | トラックバック (0) | Top

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コメント

O先生同様、わたしも、先生のご回答は秀逸と思います。AERAに理解出来ることを祈っております。担当者は理解されるのではと期待しております。

投稿 kida | 2006/03/22 19:09:05

こんにちは、または、こんばんは
私も、マスコミ、ジャーナリズムが、この問題の本質や、この問題の背景として日本の医療の抱える問題に気付いて欲しいと思います。

投稿 道標主人 | 2006/03/22 23:15:44

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